私と彼の関係、野球部部員とマネージャー、そして幼馴染。家が隣同士で親同士も仲が良かった。だから物心が付く前から一緒にいた。一緒にいるのが当たり前だった。
保育園も幼稚園も一緒に通ったし、小中学共にお互いの時間が合えば当たり前のように一緒に帰っていた。部活がない日はシニアの練習の見学へ行ったりもしたし、大会には応援に行った。
そんな様子を見た周りからは『あの二人は付き合っているんだ』と言われたけれど、そんなことはなかった。でもそんな関係が変わったのは高二の夏が終わった頃だった。そしてそれを後押ししたのは私達の関係をいつもは茶化している友人だった。
いい加減見てるこっちがイライラするって思ったんだよ。なんて後で言われたけれど私と幼馴染にはその言葉が理解できないまま終わっていった。


◇◆◇

そして時は流れ、高三の秋、私には転機が訪れた。
私の幼馴染はドラフト指名で来春からプロ入りを決めた。……でも、私は?彼に釣り合うような女性になれる?そんな風に悩んでいた頃、私は彼に呼び出された。指定された場所は、幼い頃よく一緒に遊んだ公園だった。

ブランコに座ったわたしの目の前には、膝をついて、下からわたしをを見上げる幼馴染。そして優しくわたしの手を取りいつになく真面目な表情でゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「なあ、俺もいろいろ考えたんだけどさ、やっぱお前が傍にいないとか考えられないんだわ。確かに、俺はプロ野球選手になるし、お前だって学生だ。当然高校の頃とは生活のサイクルがお互い変わるから一緒に住んでもなかなか一緒にはいられないと思う。その前にまわりに反対されるかもしれない。その程度で駄目になっちまうようなもんなら一緒にいなくてもいいんだって。……それでも、いやだからこそ俺はお前と一緒に暮らしたい。
会えない時間を理由にすれ違うなんてしたくない」

わたしの瞳をじっと見つめて、ひとつひとつ言葉を選んで、彼はそう言った。そして彼にしては珍しく自信なさげに「お前はどう?」なんて。わたしの答えが待ちきれずに聞いてくるから悪いんだけどなんだか少し面白い。でも、同時にすごく嬉しかった。いつもはわたしの考えていることを見透かしているかのような彼が、ぎゅっとわたしの手を握って不安気にわたしのこたえを待っているなんて。わたしのこたえは決まっているのに。
“私も一也と一緒にいたい”そう伝えるつもりが、言葉よりも先に出てきたのはゆっくりと頬を伝う涙で、目の前にいる彼が心配してわたしに顔を近づける。

違うの、嫌じゃないの、嬉しいの。

心配そうに見つめる彼に、そんな意味を込めてただ首を左右に振る。そして嗚咽を押し殺し声を絞り出して、

「嬉しいの」

と彼に告げる。
うん、わかってた。なんて頬を緩ませながら彼は上着の袖でわたしの涙を拭う。うそつき、ちょっと不安だったくせに。今ほっとして息をついたくせに。そう言ってやりたいけれど、わたしの涙は引っ込む気配がない。それどころかどんどん酷くなって彼の袖口はすっかり色が変わってしまっていた。

「お前、最近ずっと悩んでただろ?」
「……う、ん」
「俺もさ、ずっと考えてたんだ」
「……考え、てた?」
「ああ、プロとはいえ、まだスタートラインに立っただけの俺が、お前にプロポーズみたいなこと言っていいのか、って。しかもお前受験真っ只中だし」

親指で私の涙を拭い、彼はそのまま私の髪を優しく梳く。
わたしは自分のことでいっぱいいっぱいでだったのに、彼はわたしのことまで考えていてくれたのか。そう思うと自分が少し情けなくなる。
でも、きっと彼はわたしが気づかなかったことを謝ってもお前は今は受験のこと考えてりゃいーのなんて言ってきそうだ。だからわたしは彼に一言、ありがとうとだけ伝える。すると、彼は優しく笑ってわたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「でも、自分で思ってたより愛されてたんだなー、俺」
「……こっ、ちの、せり、ふ」

ばか、そう言って彼の胸をどんと叩いてやる。すると彼はにやりと笑ってその私の手を取り、ぎゅっとその広い胸に閉じ込める。わたしは勢いあまってブランコから落ちてしまった。このスカート、この間買ったばかりだというのにもう土汚れがついてしまったではないか。

「で、どーやったら泣き止むの?お前」
「……わ、っかん、ない」

わからない、けれどもうしばらくはこうしていたい、と彼の左胸に耳を寄せる。すると彼の鼓動がじんわりと聞こえてくる。それが心地よくてとろとろととけてしまいそうで、ふわふわして目を閉じる。

「ははっお前すげー顔ぐちゃぐちゃ」
「な!」

ほっと一息ついていた私のことはお構いなしに、けたけたと笑い出すのはいつものこと。昔、そんなだから友達がいないのだと指摘したけれどそれでもけたけた笑って、さらにここで殺し文句。
「それでも、お前は傍にいてくれんだろ?」
あの時は、さあねなんてはぐらかしたけれど、今なら自信を持って言える。一生一也みたいな人と一緒にいれるのなんて私みたいな物好きくらいよって。勝手に離れていくのは許さないからね、って。



「お前笑ってりゃ可愛いんだからさ」
「どんな顔でも可愛いとは言わないのね」

あんま擦ると痛いよな、なんて言いながら今度はわたしの涙をその唇で吸う。恥ずかしくていられなくて、また彼の胸に顔を埋める。彼は昔からさらっとこう恥ずかしいことをやってのける。

「あーまあ泣き顔もなかなかそそるものがあるけどな」

わたしの瞼に優しく唇を寄せ、ベッドの中限定で、なんて最後に付け加えてにやりと笑う。

「……ばか」
「でもそんなとこも含めて好きだろ?」
「………」

無言を肯定ととったのか、彼はいっそうわたしを強く抱きしめて、耳元に唇をよせ、いっとう優しい声で言った。

「これからもよろしく、未来の俺の奥さん」

わたしたちは、これからもお互いの愛をつみかさねながらいきていく。

「……こちらこそ。未来の私の旦那さん」

あいしてるのかけら

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